盆栽にまつわるエピソード(その3)
(※「盆栽にまつわるエピソード」の後日談です)
彼氏の趣味が盆栽だと聞いて、友達は、盛大に笑い続けた。
時間にすれば、1分程度だったかもしれないが。何がそんなに刺さったのだろうか。
「それはそれでおもしろいかもね」
ようやく落ち着きを取り戻し、そう言った友達の顔には、明らかにまだ嘲笑の面影が浮かんでいた。
もちろん私は反論してやりたかったのだが、口惜しいことに、何故だか言葉が浮かばなかった。彼氏と一緒に、自分自身も盆栽をやり始めたことで忘れていた、その希少性というか、以前は自分も彼氏の趣味としてなかなか受け入れられなかったことを、改めて思い出してしまったからかもしれない。
「今度会わせてよ。盆栽やってる彼氏。すっごい興味あるわ。」
その依頼も、冷たく断ってやろうかと思ったが、私は普通に了承してその場を去った。
後日。
私と、彼氏と、その友達の3人で、一緒にランチをすることになった。
先んじて目的の店についたのは私と友達で、彼氏は少し遅れて来るとのことだった。
「どんな彼なんだろう。まさかおじいちゃんじゃないよね〜。」
この期に及んで、まだそんなことを言っている友達を、心底殴ってやりたいとも思ったが、もちろん我慢した。
数十分後。
彼氏がようやく現れた。
友達は、びっくりしたような、あからさまに意外そうな顔を一瞬だけしたが、すぐさまそれを悟られないように、平静を装って彼に挨拶した。
私だけは、その顔を見逃さなかったのだが。
案の定、彼がトイレに立った時、友達が話しかけてきた。
「ねー、凄いカッコいいねー。イメージと全然違ったわ。まじで。どこでつかまえたの?」
私は黙って、答えなかった。勝ち誇った今の自分の心持ちを、しばし静かに味わいたかったからだ。
ハッキリ言って、私の彼氏はイケメンである。
ファッションに関しても、そこいらにいる上っ面だけ着飾っただけの、ちょっと気取った若者なんて足元にも及ばないくらい、すこぶる素敵で、オシャレだと思っている。ちょっといい匂いだってする。
その彼が、盆栽をやる。そこがまたいいのである。
そのギャップが、今の私にはたまらないのだ。
私はその日、その友達に、完全に勝利したのだ。